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雲のように…月のように…

雲のように飄々と…月のように夜道を照らし…

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悩み

もの凄く、お久しぶりです。m(_ _)m

ここ2ヶ月、ずっと頭から離れない事があるんです。
悩みと言いますか、心配事と言いますか…

個人的には、大小を別にして日々喜びも多々ございます。
前回記事にした誕生日なども、その中の一つです。
小さな喜びを日々貪欲に見つけよう、という姿勢には変わりございません。
しかし、一つの大きな心配事がある所為で、テンションが上がり切らないと言いますか、手放しで心から笑えない日が続いているのであります。


家が近所で、小学校からの友人がおりまして…
彼が、大きな事件を起こしてしまったのです。
夫婦喧嘩で手を上げてしまったのですが、当たり所が悪く嫁さんが亡くなってしまったのです。
どんな理由があろうと、人を殺めるという事はとんでもない事であります。
私らみたいな者が、口にするのも変な話ですが…


小学校からの友人と言っても、親友と呼び合うほどの親しい関係ではございません。
しかし、事あるごとに顔を合わせる機会も多くありましたし、仲の良い友達であることには間違いありません。
そして何よりも、ガキの頃からの友人というのは、まるで『戦友』のような特別な友情で結ばれているものであります。

彼は、私なんかとは違い真面目なスポーツマンでした。
彼は放課後には部活、私はタバコとシンナーの匂いがする薄暗いゲームセンター…
学校が終ってから遊ぶ事なんて、ほとんどありませんでした。
それでも、家が近かったので朝はよく一緒に登校したものです。

別々の高校に上がってからも、ちょくちょく偶然に顔を合わせておりました。
年に数回、共通の友人の家で麻雀をやったり、酒を呑んだこともありました。
小・中よりも高校に行ってからの方が、一緒に遊んでいたかもしれません。

お互い社会人になってからは、もっと疎遠になりました。
友人の結婚式で会ったり、実家の近所のスーパーで偶然会ったり、まぁそんな程度です。
最近では、昨年行われた中学校の同窓会的な集まりで会ったのが最後です。
彼は、ガキの頃から変わらない笑顔で、陽気に酔っておりました。

実に良い人柄で、人に嫌われるなんて事はまず無いような男です。
友達思いで、家族思い、子煩悩な良い父でもありました。
私と同じ床屋に通っておりまして、こんな道を選んだ私の事を随分と心配してくれていた事を、床屋のオヤジから聞かされておりました。

休みの日には、子供の小学校で子供達みんなにサッカーを教えたり、PTAの活動などにも積極的に参加しておりました。
仕事にも勤勉で、高卒以来ずっと一つの会社で、とにかく真面目にやっておりました。
地元ではちょっと知られた会社でして、努力の甲斐あって高卒のクセにもうすぐ取締役という話まで出ていたのです。
若い頃には、驚くほどの安月給で苦労していましたが、今では仕事も家庭も順風満帆だったのです…


事件は深夜に起きて、その日の昼のニュースで大々的に報道されました。
事件の一報を、昼のニュ-スで見た同級生から聞きました。
考えもしなかった事でしたので、愕然といたしました。
その後も、次々と私の所に同級生からの電話が殺到いたしました…

出先で一報を受けた私は、とりあえず地元の警察署に電話しました。
しかし、彼の身内でも無い私に電話で詳細を教えてくれるワケがありません。
その日は、何も情報が入りませんでした。
私事を片付け夜中に帰宅した際、ネットで地元のニュースを確認いたしました。
彼の家が画面に映った時に、間違いない事を確信しました…

次の日に警察署に出向き、窓口で詳細を教えてくれという事を伝えましたが、やはり身内ではないので何も教えてくれませんでした。
そのまま、上の階の1課に行きました。
傷害に絡む事件の担当は刑事1課なのです。

知った顔の係長がいたので事件の事を訊いたのですが、歯切れの悪い答えしか返ってきませんでした。
だんだんイライラした私は「小学校からのダチなんだ。状況ぐれぇ教えろや!」と怒鳴ってしまいました。
幼馴染と知った途端、係長の表情が変わり「あそこのファミレスで待っててくれ。もうちょっとしたら抜けていくから。」と。
そして、大まかな事件の概要を聞かされました。

それからも、友人たちから色々な情報が集まってきました。
恐らく夫婦喧嘩の原因は妻の浮気である事。
その事で、彼が昨年から悩み続けていた事。
彼が、何度も離婚を提案していた事。

事件当日も、帰りの遅い妻を心配していたんだそうです。
「仕事が大変だったら、いつ辞めたって良いんだからね。」と、何一つ疑わずに…
そしたら、妻がとんでもない事を言い、携帯を見るととんでもないメールが…

昔から、彼が人を殴ったなんて話を一度も聞いた事がありませんでした。
彼の人柄を知っている者には、いきなり信じられる話では無かったのであります…

 

現在、彼は5月に開かれる初公判を待って、拘置所で過ごしております。
真面目な人生を送ってきた彼は、たかだか留置場すらも経験した事がございません。
私は今までパクられた人間をそれほど心配した事がありませんでしたが、今回に限っては心配で仕方が無いのです。

悪い奴と同じ房になってないかなぁとか、読む本あるかなぁとか、思いつめてないかなぁとか、初めての牢屋で日々眠れているのかなぁとか…
毎日考えてしまいます。
私に直接言う者はおりませんが、人を殺したんだから辛い目に遭って当然だろう…と言う人間がたくさんいる事も知っております。
まぁ、当然の意見であると思います。
しかし、私にとっては、ただの気の良い友達なのです…


少人数で中学の仲間を集めて、事件の内容と、現在の状況とを報告いたしました。
彼をどうやってサポートするか、という話し合いも兼ねております。
私らは、それぞれに色々な事実を集めました。
浮気の相手や仕事先、彼の当日の足取りや事件に至った経緯まで…

それぞれに、色々な意見も出ました。
「彼が妻を殴った気持ちも解かる。しかし、やり過ぎた事は良くない。」
「自分が同じ立場だったら、やっぱり殴ったかもしれない…」
「どんな事情があっても、殺したのは良くない!」
「妻が浮気する原因が、彼にもあったかもしれない。」
「夫婦喧嘩はお互い様だ。殴ったのは絶対に悪い。」
延々と7時間も皆で話し合いました。

色んな意見が出ながらも、結局全員で嘆願書の署名を集め、連絡を取り合いながら時間がある者は面会に行く事や、現在のサポート体制、出所後のサポートなどを約束しました。
ナンだカンだと言っても、皆友達です。
こんな時の気持ちは同じなのです。

私は子供の頃、まさか自分がこの道を選ぶとは思っておりませんでした。
そして、こんな事を言っていたのです。
「誰かが年少に行こうと、将来ヤクザになろうと、銀行強盗になって人を殺したとしても、友達は友達だ。あまりにもヒドい事をして許せないと思っても、バッタバタぶん殴る事はあっても、やっぱり友達はやめないと思う。」

同級生が皆この事を覚えていてくれて、そして同じ気持ちでいてくれた事を嬉しく思いました。
やはり、ガキの頃の友達は、いくら離れていても特殊な絆があるのだと思います。
彼の面会に行った時「最初は毎日、死にたい、死にたい、ってそればかり考えていた。だけど皆が来てくれて、今は行きたいと思ってる。一生かけて罪を償いたいです。ありがとう、ありがとう…」って、泣いておりました。

彼からもらった手紙には、妻を誰よりも愛していた事、今でも妻とやり直したいと思っている事、子供を愛している事、などが切々と書かれておりました。
切ないほどに純粋で真面目なヤツなんです…
彼の手紙は、こう結ばれていました。
「社会に戻りましたら、子供達を立派に育てたいと思っています。そして、友達の大切さを教えたいです。」

社会に戻っても、彼が親に戻れるのかはまだわかりません。
彼の両親や妻の親族も、彼を許してはおりませんから…


少なくとも彼に判決が下りるまで、私らのモヤモヤが消える事は無いでしょう。
私はただ一友達として、彼が一日も早く戻ってくる事を願っています…

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