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雲のように飄々と…月のように夜道を照らし…
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私が暮らしている繁華街には日々数多くの方々がやってきます。
毎日何万人という単位でございます。この街に関わる事19年、この業界に身を置く事16年の月日が過ぎております。その中で男女問わず印象に残る出会いというのは、そう多くは無いものでございます。
今から7年前に出会った現在25歳の若者(♂)がおります。地方都市の老舗のクラブの一人息子で調理師学校に通うため、都会に出てきて一人暮らし。当時、私が頻繁に出入りしているビル(以前刺されそうになった例のビル)の一角でアルバイトをしておりました。細身で背は180ちょっとあり、元気がよく声もでかく、とにかくヤンチャで暴れん坊、非常に目立つ子でありました。
そのビルは朝迄営業の店が大半で、酒屋の配達時間が終わると店同士で足りなくなった物の貸し借りが頻繁に行われるのです。ブランデー1本だの、ビール5本だの、氷だの色々と貸し借りするのです、翌日現物で返せば良い訳であります。
私がビル内のどの店で呑んでいても、不思議と必ず借り物をしにこの小僧が現れるのです。ただでさえ目立つ子なので、すぐに顔を覚えてしまいました。
「おっ借り物しに来たのか、1杯だけ呑んでいけ!」当然一気飲みでございます。「おっまた何か足りなくなったのか、とりあえず呑んで行け!」また一気。違う店に移動しても「なんだよこの店にも借りに来るのかよ、まぁ呑んで行け!」そして一気(笑)。
この調子で一日に何度も顔を合わすのです。そして私と会う度に強制的に一気呑みでございます。当時18歳の小僧には、さぞキツい事だったでしょう(笑)。
そんなやり取りが日々続き、調理師免許を取得した後も23歳まで繁華街に残ることになります。その間も数件の飲み屋で真面目(?)に働いておりました。
とにもかくにも私を慕ってくれ、私も随分と可愛がりました。
堅気ではありますが私と『兄・弟』の関係になったのであります。
ある日こいつが神妙な顔をして「相談がある」とやってまいりました。実家の母に「帰ってクラブを継いで欲しい。」と言われたらしいのです。本人としては本気で私と一生つるんでいたかったらしく随分と悩んでおりました。なにせ一本気な子でしたから・・・。実家のクラブは大繁盛店で、継げば黙って左ウチワの暮らしでございます。
私はコイツが可愛くて可愛くて、この小僧と一緒ならどこまでも勝負できると思い始めていた矢先の話であります。
「何も悩む事なんかねぇだろ。一人息子なんだから継いでやれよ!」考えに考え抜いてそう答えました。色々な事が頭を駆け巡り、互いにしばらく無言であります・・・。小僧は私の方を絶対に見ず、涙ぐんでおりました。私は普段どおり何事もなかったような顔を、無理矢理作っておりました。
私が稼業から身を引く事を考え始めたのはこの時からでございます。
結局彼は家を継ぎ、今は大成功しております。
持ち前のバイタリティで親の代よりも更なる発展をしている最中であります。その後も年に数回互いに行き来をしております。
3ヶ月前、結婚と出産の予定を報告しに街にやってまいりました。
我が事のように嬉しく思いました。
やはり帰して正解だったなぁ・・・と。
遠く離れてはいても一生の兄弟分でございます。
出会いは別れの始まり・・・
『別れ』には『再会』がつきものでございます。
点は線となり、線は弧となる、弧は和(輪)となって縁(円)になる。
良い縁に恵まれたいものであります。